九、 ヒルティの慧眼 P.21
ヒルティは時代の風潮に流されるようなことはけしてなく、時代の脚光を浴びているような思想に対してもその正体を見透す鋭い眼力を持っていました。
特に、当時既に台頭していた社会主義に対して容赦のない批判を下しています。社会共産主義は20世紀に世界中を席巻し、一時は飛ぶ鳥をも落とすような勢いでしたが、その内部矛盾から崩壊していきました。
今日では社会主義は過去の遺物となり、社会主義ではもはや国家は成り立たないと言うのが世界的常識となってしまいました。
ノーベル平和賞を受賞したゴルバチョフ元ロシア大統領がアメリカ議会に招かれた時、「共産主義の実験は失敗した。」と事実上の共産主義の敗北宣言をしたことはまだ記憶に新らしいものです。
ヒルティが一世紀以上も前に社会主義に対する明確な批判を下していることは驚くべきことではないでしょうか。当時の諸国民がヒルティの警告を素直に受け入れていたなら、その後の社会、共産主義諸国の悲劇は避けられていたでしょう。
『社会主義の最も厭うべき点は、社会主義が嫉妬を人間行動のバネにしており、また実践活動においてもそれを信奉者に教え込んでいることである。嫉妬は人間の本性の一番悪い性質である。』
(「夜Ⅱ」 6月17日)
階級闘争はその最たるものでしょう。
『聖職者達が社会主義に心を寄せるのは大きな誤りである。なぜなら、社会主義では徹頭徹尾、無神論であり、したがって祝福と繁栄を伴わないからである。』 (「夜Ⅱ」5月6日)
ロシア革命や中国文化大革命等においていかに多くの人々が殺害されたかを私達は忘れてはならないでしょう。その中には無数のキリスト教徒も含まれています。社会主義国家の国民は聖書はおろか、ヒルティの著作さえ紐とくことは困難と思われます。
『社会的改革は内的変化に基づくものでなければならない。一切の仕事が神を離れては困難であり、神と共にあれば一切が可能である。これが即ち、社会主義とキリスト教との違いである。』
(「幸Ⅲ」277~278頁)
これこそ慧眼というものでありましょう。
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